くせを考える
- Music School AMBER
- 2023年2月6日
- 読了時間: 12分
更新日:2024年12月12日
Music School AMBERのまつもとあきこです。
フルートを始めたら最初に気をつけてほしいことの中で悪いくせをつけないためには初めが肝心というお話をしました。
今回はもう少しくせ・習慣というものを考えていきたいと思います。
くせとは何か?
なおせるのか?
そもそもなおさなければならないのか?
あなたが自分のくせ、あるいは生徒さんのくせにどう対処するのか、またフルートに限らず日常的なくせと向き合う時、なにかのお役に立てればという気持ちで書いてみました。

もくじ
くせとは何か
くせとは?
「癖・くせ」と調べてみると次のように説明されています。
❝人が無意識のうちに、あるいは特に強く意識することなく行う習慣的な行動のことである。手足や体の動かし方、話し方などで同様な状況のもとで常に自動的に繰り返される傾向。広い意味では習慣の一種とみられるが、極端な場合には通常よりも不必要に偏向した反応として現れる。 自分は気づいていないという場合が多い❞
「無くて七癖、あって四十八癖」
人はだれしも多かれ少なかれ癖があるということ。
くせは誰にでもあります。
ただ、なおしたいくせとなおさなくてもいいくせがあります。
でもくせをなおすのは大変です。
自覚がなく無意識にしてしまうという点がとても厄介です。
習慣的な行動なので、周りのみんなは気がついているのに本人は気がつかないんですね。
また自覚があったとしても習慣になっているのでなかなか変えられないというところが問題です。
いつついた?
フルートの場合で言うと、楽器を持つのも音を出すのも初めての時は白紙状態。
何もくせのない状態です。
そんな初めてフルートを持ったときのことを思い出してみると、おっかなびっくり楽器を手にして、キーに指をのせてみたのを思い出します。
横に倒して歌口を口元へもっていきますが、長さの感覚がないのでうまく口に当てられません。
そこで首の方が動いて楽器に寄り添っていきます。
楽器を持つ手もどこにどうのせれば楽器が安定するのか、なにが正しいのかわからないまま、とにかく音を出そうとぎこちない恰好でなんとか口に当てた歌口に息を吹きかけてみました。
でも「ひゅー…」という風音がでるだけ。
そこで強く吹いたり、上に吹いたり、楽器を回したり…とにかくいろいろしてちょっとでもフルートっぽい音が出ないか頑張ってみました。
そうしているうちに音が出て、それが私にとっての成功体験の第一歩になりました。
でも思い返すとこれが本当に成功だったのか?
実はここまでで悪いくせがつく原因がいくつもあったのです。
つまり、くせがつく可能性のあるタイミングは最初にあるのです。
正しい方法を知らないまま、試行錯誤しているうちに自分なりのやり方を身に付けてしまうその時なのです。
運よく正しいやり方でくせがつけばいいのですが、間違った方法だった時、それは悪い方法が習慣になってしまうのです。
もう一つのタイミングは、疲れたとき。
長い時間練習していると疲れてしまいます。
疲れるとフォームが崩れてしまいます。
それが習慣になってしまう可能性があります。
上手に休憩をとって、体も気持ちもリフレッシュする必要があります。
なぜついた?
なぜ悪いくせが付いたのでしょうか?
私が思うのは、みんな無理をしたからです。
無理に一人でわからないまま頑張ったから。
疲れているのに無理をして根を詰めてやったから。
わからない時は正しい方法を知っている人にアドバイスを求めることができればよかったのです。
正しいアドバイスが書いてある教則本が手元になかったのかもしれません。
きちんと読み込めていなかったのかもしれません。
そして、誰かに指摘してもらえた時にはそれを素直に受け入れることも大切です。
悪いくせをつけないためには、アドバイスを受け入れる素直さと客観性も必要なのです。
くせの種類
くせと言うと
足を揺らす「貧乏ゆすり」
食べる時くちゃくちゃと音が出る「食べ癖」
考え事の時の「鉛筆回し」
など、行動に出るものがすぐに浮かびます。
他に驚いたときなど、何かに対する反応にもくせがあります。
感じ方にもくせがあると言えます。
同じことを言われて不快に感じる人と何も感じない人がいます。
皮膚感覚や重さの感覚、バランス感覚もでしょうか。
だれかの説明にピンとこないときは、説明している人と感じ方が違うのでしょうね。
そして考え方にもくせがあります。
先読みをしすぎて心配性とか
「〇〇するべき!」「〇〇しなければならない」と自分の考えを縛ってしまうなどが考え方のくせですね。
自分を思い返してみると、
「うまくできないのは練習不足のせい」
そう思い込んで、悪いくせを強化してしまうような練習をさらに続けてしまうところがありました。
この場合は練習不足以外の原因、持ち方や練習の仕方などを見直す考えが持てなかったことが問題です。
すぐ自分のいたらなさばかりを責めてしまう考え方のくせが上達への遠回りをさせてしまっているのだと思います。
くせをなおすのがむずかしいのはなぜ?
なおしたいのになおせない
人が無意識のうちに、あるいは特に強く意識することなく行う習慣的な行動だから、なおすのが難しいのでしょうね。
しかも無自覚だから、人に指摘されて気がつくことがほとんどです。
だから誰にも何も言われなかったら、なおしたいとさえ思うところにいかない場合が多いと思います。
なおしたいと思ったけどなおせない人は、なおす方法を知らないためにあきらめているかもしれません。
習慣だから
習慣を変えるのは大変です。
行動や反応のくせは変えるのに時間がかかると思いますが、考え方のくせは割とすぐにできるのではないかと思っています。
先生や人からのアドバイスで「目から鱗」なんてこともあります。
行動や反応の習慣を変えるためには、「いつも通りにやる」ということをやめなければならない。
「いつも通りにやるのをやめる」をする
結構強く意識しないとなりませんが、できないことではないと考えています。
自覚がないから
そもそもどんなことも自覚がなければ変えるのは難しいですよね。
でも誰かに指摘してもらったら、その時から自覚できるかもしれないです。
誰かから言ってもらう指摘は大事です。
もっと大事なのはその誰かが誰なのかということでもあると思います。
どんな人があなたにアドバイスを言ってくれたのかで、アドバイスを素直に受け入れることができるかどうか、ちょっと違います。
正しいことを言っているのに
「あなたに言われたくない!!」
と思う人に言われると、全然入ってこないですよね。
だから、信頼している人、尊敬している人、あなたを大事に思っている人にアドバイスを言われると、スーッと入ってくるものです。
アドバイスを聞いて
「やってるつもりの自分」と「本当はできていない自分」の違いを受け入れること。
それが、自分の悪いくせを自覚出来たということなのではないでしょうか。
くせはなおすべき?
ここまできて、くせはすべてなおさなければならないのか?という疑問がわいてきます。
くせとは習慣なのだから、いい習慣はそのままに悪い習慣だけ変えられるといいですね。
楽器演奏の場合、良いくせと悪いくせは、いい演奏ができているかどうかで判断できるのではないでしょうか。
スポーツの世界でも個性的なくせはよく見かけます。
たとえば、プロのテニスプレーヤー。
見るとフォームは様々。
サーブはそのフォームもトスを上げてから打つまでのタイミングもみんな違う。
でも、みんなそれぞれに安定したショットを打っています。
大事なことはボールとラケットの面の関係が良ければ、いいショットが打てることです。
フルートにも同じことが言えます。
楽器と口の位置関係も、いい音が安定して出すことができればそれでいいのです。
いいフォーム、いい姿勢には、見本のように唯一絶対のものがあるわけではありません。
安定していて、コントロールがしやすく、その人のしたい表現ができるのであればそれでいいのだと思います。
なおすべきくせはその人がしたい表現ができないもののとき。
その時はなおさなければならないでしょう。
そして本人もなおしたくなっているものです。
くせは個性?
くせとは気がつけば身に付いていて、ずっと自分とともにあったものです。
だからそれは自分自身を構成する一部となっています。
だから
「本当に変えなければならないのか?」
という思いにかられることもあると思います。
私としても、「必ず全てなおしなさい!」と言いたいのではありません。
演奏の時に体が自然と動いてしまうことを注意する人もいると思いますが、その人が気持ちよく演奏できていて、豊かにその楽曲を表現できているのであれば、その動きは個性の一つだと思います。
もしミスが多い、音程が悪い、周りとアンサンブルしづらいなど問題があるときは、改めるべき悪い習慣・くせであるということを、素直に認めるべきでしょう。
より良い演奏をしたいと心から思っているあなたなら、きっとそう感じると思います。
くせをなおす方法はあるのか?
なおしたいのか?変わりたいのか?~本人の意思~
「先生…、いつもここがうまくいかないんです…」
とAさん。
いろいろなアドバイスをして、レッスン中にどんどんよくなります。
でも次に来たときはまた元に戻っています。
こういうことはよくあることです。
私もそういう生徒の一人でした。
わかります。
先生に相談してできるようになるとホッとしてしまうんですよね。
先生に「良くなったよ!」と言われると安心できますからね。
でも私にとってショックな出来事がありました。
アカデミー(王立音楽院)でのスケールクラスでのこと。
うまくいかない私に先生が
「そんな習慣(くせ)は今すぐ窓の外に捨ててしまいなさい!!」
本気でうまくなりたいなら、今までのくせをやめなければならなかったのです。
私にとってこの一言は本当に強烈でした。
これで目が覚めたように思います。
くせをなおすということは、これまでの自分を一度捨てて作り変えることと言えるのかもしれません。
まずは本当に変わりたいのか、本当に変えたいのか、考えてみてください。

自覚なし or 自覚あり
くせには自覚がないことが多いです。
注意をするとなおしてくれますが、その修正は表面的なものなんですね。
「言われたから変えた」だけなんですね。
時には、びっくりして
「本当にそうなってますか?」
という人もいます。
自覚がないんですね。
一人で練習していると気がつかない、気がつけないことがでてきます。
自覚があれば気をつけることもできます。
自覚がなかったことをアドバイスされたらラッキーです。
客観的に誰かに見てもらえることは、とてもありがたいことだなと思っています。
いつもする〇〇をやめる
自覚症状があったら次にすることはストップです。
自動的にしていたくせが「出た!」と思ったら一旦止まってみます。
いつもの道を通るのをやめて、違う道に進む感じです。
慣れない道ではゆっくり確認しながら歩きますよね。
一旦止まって道を変えられたら、くせも変えていけるでしょう。
なおせないならどうする?
自覚はあるのに、くせをなおせないときはどうしたらいいのか…。
そんな時は、新しいくせをつけなおすのはどうでしょう?
くせの上書きです。
頭を低くして楽器を構えるくせがあるなら、楽器を一度高く持ち上げてから楽器を口の高さに下げてきて構えてみます。
新しいくせがついたら、悪い方のくせはなくなっています。
自覚症状がなく人に言われても納得がいかない人は、自分の演奏を録音、録画して見てみてはどうでしょう?
一目瞭然です。
私は受けていたレッスンをよく録音していました。
先生がアドバイスしてくれたことをその場でやっているつもりでいても、録音を聴くと全然できていなかったことに気がつくことができました。
録音を聴くことはレッスンと同じだけの時間を割かなければならないので、面倒に感じてしまいますが、よく把握しないまま独りよがりな練習をして、また悪い習慣をくせ付けしてしまうよりもはるかに有意義でした。
悪いくせをつけないためにできること
いそがない・いそがせない
まずは基礎をしっかりと身に付けてほしいと思います。
近道はありませんから。
急いで上手になろうとしないでください。
急いで上達させようとしないでください。
私はとてもせっかちでした。
急いで吹けるようになろうとしてしまいました。
でも、そのせいで大切なことをきちんと身に付けないままにしてしまいました。
あとになってついてしまった悪いくせをなおすのはとても時間がかかりましたし、なかなかなおりません。
今もうまくいかないことがあります。
フルート人生のほとんどが悪いくせの修正に充てられなければなりません。
ですから、最初に土台として
組み立て方
持ち方
姿勢
を身に付けることに十分な時間を割いてください。
指導者の存在
一人で始めるのは気楽です。
自分のペースですすめることができます。
でも、悪いくせをつけて遠回りをしたくなければ、やはり指導者の存在が必要だと思います。
すごいプロの人でなければならない、ということではありません。
部活の先輩、違う楽器の先生、ご両親でもいいかもしれません。
なにかあなたの演奏に素直に本当のことを言ってくれる人、そういう存在が必要だということです。
そして、教える人は決して学習している人を急がせないで下さい。
「何度言ったらわかるの!」
と言いたくなることもあるかもしれませんが、急いで身に付けたものはボロが出ます。
メッキが剥がれるように…。
素直さ
「才能があるかないか…」
芸術やスポーツの世界でいつも言われることですが、上達する人が持っている一番の才能は「素直さ」ではないかと思います。
アドバイスを受け入れ、自分ごととして消化して身に付けていくことができること。
それが大切だと感じます。
客観性
素直さと一緒にもう一つ大切なことは「客観性」だと思います。
子供の成長でもいえることですが、物事を客観的にとらえる力がつくと、冷静に問題を解決することができるようになっていきます。
どんなことにも必要な力ですね。
大人になっても意識したい部分だと思います。
まとめ
くせとは
自覚がなく無意識にしてしまう習慣的な行動
本人に自覚がないためなおすことが難しい
くせをなおす
くせをなおすことは難しく、時間もかかるが本人の意思があれば可能
まずは自覚すること
悪いくせをつけないために
ゆっくり丁寧にスタートする
指導者の存在が必要
素直さと客観性が大切
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